おもちゃを取られそうになると手が出る。思いどおりにならないと家族を叩く。友達との距離が近くなると噛んでしまう。園から伝えられるたびに、申し訳なさや不安を感じ、何度注意しても繰り返すことに迷う保護者の方もいると思います。
叩く・噛む行動は、安全のためその場で止めます。一方、強く叱るだけでは、次に使える方法までは伝わりにくいことがあります。行動の前後を整理し、安全を守ることと、別の伝え方を育てることを一緒に考えましょう。
保護者A叩く・噛む背景は一つではありません
次は「考えられる背景」であり、診断や原因の断定ではありません。行動だけから発達障害の有無や、保護者の愛情・しつけを判断することはできません。
- 「やめて」「貸して」「助けて」を、間に合う形で伝えにくい
- 順番、待つ時間、活動の終わりが分かりにくい
- 人との距離、音、混雑、身体への接触が負担になっている
- 疲れ、空腹、痛み、体調不良が重なっている
- 気持ちが大きく動いたとき、止まることが難しい
- 行動によって、結果的に場面が変わった経験が重なっている
同じ子でも場面によって違います。児童発達支援ガイドラインの、健康・感覚・伝え方・環境などを合わせて捉える視点を参考に、本人の言葉や様子も確かめます。背景を考えることは、相手を傷つける行為を容認することではありません。
安全を守りながら考えたい5つの関わり
1.最初に相手と本人の安全を守る



大人が間に入り、危険な物を遠ざけ、接触が続かない距離を取ります。相手と本人に傷や痛みがないか確認し、「止めるよ」「手はここ」と短く、落ち着いて伝えます。傷や痛みがあるときは、必要に応じて医療機関へ相談してください。
長い説明や振り返りは落ち着いてからにします。押さえつけたり、痛みや恐怖で従わせたりする方法は勧めません。差し迫った危険を防ぐ場合も、安全確保に必要な最小限にとどめ、危険が去った後まで身体を制限し続けないようにします。
2.行動の直前と直後を見る
安全を確保した後、覚えている一場面を短く記録します。「乱暴だった」ではなく、見聞きしたことを書きます。下の表は架空の例です。スマートフォンでは横にスクロールできます。
| 直前にあったこと | 実際に見られた行動 | 周囲の対応 | その後どうなったか | 次に試す支援 |
|---|---|---|---|---|
| 使っていた電車に友達が手を伸ばした | 友達の腕を手のひらで1回叩いた | 大人が間に入り、傷と痛みを確認した | 二人が離れ、本人は電車を持っていた | 大人が近くで「まだ使う」のカードを示す |
「電車を持っていた」は事実ですが、「取られたくなかった」は解釈です。一度の記録で理由を決めず、時間帯、体調、起こらなかった場面との違いも見ます。相手が離れたなどの結果も手がかりになりますが、安全確保を控えて反応を試す必要はありません。
3.代わりの伝え方を、落ち着いているときに練習する
「やめて」「貸して」「まだ使う」「次にやりたい」「助けて」のほか、その場から離れる、大人を呼ぶことも選択肢です。話し言葉だけを求めず、指差し、身振り、写真、絵カードから、使いやすい方法を1~2個選びます。



大人との穏やかな遊びで、「まだ使う」のカードを示したら大人が受け止める、という短いやり取りを試します。伝える手段を選ぶ考え方はガイドラインの「言語・コミュニケーション」を参考にしています。貸し借りは「貸して・待つ」を育てる関わりもご覧ください。
4.起こりにくい環境を先に作る
- 人気のおもちゃを複数用意し、待つ時間を短くする
- 順番カードや交代の合図で、次の番を分かりやすくする
- 子ども同士の距離を調整する
- 切り替えを少し前に知らせる
- 困りやすい場面では、大人が近くにいる
環境調整は、友達との関わりをいつまでも避けさせるためではありません。安心できる条件で、別の関わり方を経験しやすくするための工夫です。本人と相手の様子を見て、人数や待つ長さを調整します。
5.落ち着いてから、関係の立て直しを支える
相手のけがや気持ちを確認し、物を返す、倒れた物を一緒に直すなど、できることを大人と考えます。年齢や理解に合わせて短く振り返り、次に使う言葉やカードを確かめます。
謝罪も大切な方法の一つですが、泣いたり興奮したりしている最中に、形だけの「ごめんなさい」を強制しません。落ち着いた後に理解できる形で支え、相手にもすぐ仲直りすることを求めないようにします。
「叩く前に止まれたね」「助けてと伝えられたね」と、代わりの行動を具体的に認めます。大人が気持ちを言葉にし、関わり方の見本を示す考え方は保育所保育指針解説の「人間関係」を参考にしています。



家庭だけで抱え込まず、相談してよい目安
けがにつながることが繰り返される、頻度や強さが増える、園生活や外出が大きく制限される、痛みや体調不良が疑われる、保護者や園の負担が大きい。こうした場合は、園、市町村の相談窓口、児童発達支援、小児科などへ相談できます。期間を決めて待つ必要はありません。
よくある質問
叩いた直後は、まず何をすればよいですか?
大人が間に入り、相手と本人の距離を取り、傷や痛みを確認します。短い言葉で止め、安全と落ち着きを優先します。
その場ですぐに謝らせた方がよいですか?
興奮している間は謝罪を強制せず、落ち着いてから相手への声かけや、返す・直すなどの関係の立て直しを支えます。
どのくらい続いたら相談してよいですか?
日数だけで決めなくて構いません。けがの心配や生活への影響がある、対応に迷うという段階から相談できます。
SHIP中央では、場面と伝え方を一緒に整理します
SHIP中央は、山梨県中央市にある未就学児対象の児童発達支援事業所です。私たちは行動だけで判断せず、ご家庭や園での様子、起きる前後、環境や伝え方を整理し、その子に合う支援を考えます。
個別活動では、落ち着いて取り組める中で、分かりやすい伝え方や必要な助けを確認します。少人数の活動では、順番や要求、断ること、助けを求めることなど、人との関わりを経験します。安全に経験できるよう、本人の様子に合わせて活動を組み立てます。
今回のような場面なら、個別で使いやすいカードや身振りを確かめ、友達のいる場面で使える条件を考えることができます。うまくいかなかったときも、子どもの努力だけに求めず、大人の位置や合図、待つ時間を見直します。
家庭や園でも使いやすい方法を保護者の方と一緒に考え、保護者の同意のもと、必要に応じて園などと連携します。行動が必ずなくなるとお約束するものではなく、支援の中で様子を確かめながら調整していきます。
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参考にした公的・専門情報
2026年9月14日に公式掲載版を確認しました。声かけや観察メモは、以下の考え方を踏まえた提案例です。5つを行えば必ず改善するという効果を示すものではありません。
- こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン」(令和6年7月):健康・感覚・行動を合わせた理解、伝える手段、環境調整、家族支援。第2章・第3章を参照。
- 厚生労働省「保育所保育指針解説」(平成30年2月/こども家庭庁掲載):第2章「人間関係」。気持ちの受け止め、大人の仲立ち、関わり方の見本を示す説明を参照。
見学・相談で、気になっている場面をお聞かせください
中央市、昭和町、甲府市、南アルプス市周辺で相談先を探している方も、利用するか決めていない段階から見学やご相談が可能です。お子さまが手を出してしまう場面や、その前後の様子を、分かる範囲でお聞かせください。一緒に整理し、その子に合う伝え方や環境を考えていきます。

