「先生がみんなに話しているとき、うちの子だけ動けない」
「個別に声をかけてもらえば分かるのに、一斉指示になると難しい」
「年少・年中になったら、自然にできるようになるのかな」
園からそう聞くと、「話を聞いていないのかな」「このまま就学して大丈夫かな」と心配になることがあります。
けれど、一斉指示は「聞こえたらすぐ動く」という一つの力だけで成り立つものではありません。自分に向けられた話だと気づく、遊びから注意を切り替える、ことばの意味を理解する、周りの動きを見る、順番を覚えて行動するなど、いくつもの力が重なっています。
そのため、いきなり「みんなと同じように動く」を目標にするより、今できている段階から少しずつ経験をつなぐことが大切です。この記事では、一斉指示が通りにくい年少・年中のお子さんを、個別の声かけから小集団、園生活へつなぐ5つのステップをご紹介します。
保護者F個別なら動けるのに、集団になると難しいのは、やる気の問題なのでしょうか?



いいえ。一斉指示には、注意の切り替えやことばの理解など、いくつもの力が関係しています。
一斉指示に必要な力は、一つではありません
園で先生が「お片づけをして、椅子に座りましょう」と伝えた場面を考えてみます。お子さんは、次のようなことをほぼ同時に行っています。
- 先生の声に気づく
- 遊びから先生へ注意を切り替える
- 自分にも言われていると分かる
- 「片づける」「椅子に座る」の意味と順番を覚える
- 周りの子の動きも手がかりにして行動する
音や人の動きが多い場所では、声に注意を向けるだけでも負担になることがあります。また、ことばは理解できていても、好きな遊びを終える準備に時間が必要な場合もあります。
「一斉指示が通らない」という結果だけで判断せず、どこまでは分かっていて、どの部分で止まりやすいかを見ると、次に必要な支援が見えやすくなります。
まずは「できる場面」を探しましょう
苦手な場面だけでなく、うまくいっている場面には大切な手がかりがあります。
- 名前を呼んでから伝えると動ける
- 一つの指示なら分かる
- 実物や写真を見せると分かる
- 先生の近くや端の席なら聞きやすい
- 好きな活動では周りを見て動ける
- 少人数なら同じ活動に参加できる
これは「できたり、できなかったりしている」のではなく、力を発揮しやすい条件があるということです。その条件を出発点にして、少しずつ人や場所を変えていきます。
個別から小集団へつなぐ5つのステップ
ステップ1:一対一で「一つの指示」を経験する
まずは、大人と一対一の落ち着いた場面で、短い指示を一つだけ伝えます。「積み木を箱に入れて」「靴を持ってきて」など、見れば何をするか分かりやすい内容から始めます。
大切なのは、話す前にお子さんの注意がこちらに向いているかを見ることです。何度も遠くから声を重ねるより、近くへ行き、名前を呼び、短く伝えて待ちます。できたら「聞けたね」だけでなく、「積み木を箱に入れられたね」と具体的に返します。
ステップ2:見て分かる手がかりを添える
ことばだけで動きにくいときは、実物、写真、絵、指さし、大人の見本などを添えます。「片づけて」と言いながら箱を見せる、「次は手洗い」と写真を見せるなど、聞いたことばと行動を結びつけます。
見て分かる支援は、ことばを使わなくするためではありません。今は視覚的な手がかりを使って理解し、経験を重ねながら、必要に応じて手がかりを少しずつ減らしていくための方法です。
ステップ3:大人と二人で、同じ指示を聞く
一対一で分かるようになったら、先生とお子さん、または大人二人とお子さんなど、小さな「一緒」の場面をつくります。合図を聞いて二人で片づける、同じカードを一枚ずつ運ぶなど、周りの人と同じ指示で動く経験を増やします。
この段階では、大人が隣で見本を見せたり、「今はこれだよ」とそっと示したりして構いません。助けがあればできる経験を重ねることが、次の自立につながります。
ステップ4:少人数で、役割のある活動に参加する
次は、2〜4人ほどの小集団で試します。カードを配る、道具を運ぶ、順番に一つずつ置くなど、「自分が何をするか」がはっきりした活動は参加のきっかけをつかみやすくなります。
最初から最後まで参加する必要はありません。「始まりの合図だけ」「一回だけ」「片づけから」でも十分です。短く成功できる範囲をつくり、少しずつ参加する時間や指示の数を広げます。
ステップ5:人・場所・活動を少しずつ変える
療育の部屋でできたことが、そのまま園や家庭でできるとは限りません。先生が変わる、座る場所が変わる、活動が変わると、もう一度分かりにくくなることがあります。
「できなくなった」と捉えるのではなく、新しい条件でも分かるように手がかりを戻します。そして慣れてきたら、名前を呼ぶ回数を減らす、写真を小さくする、大人が隣から少し離れるなど、支援を一つずつ減らします。
進んだり戻ったりしながら、お子さんが安心して参加できる範囲を広げていくことが大切です。
家庭でできる関わり方
家庭を「練習の場」にしすぎる必要はありません。着替え、食事、片づけなど、毎日の生活の中で伝え方を少し整えるだけでも、お子さんの分かりやすさは変わります。



家庭でも、一斉指示の練習をした方がいいですか?



特別な練習より、毎日の生活で短く一つずつ伝えることから始めれば大丈夫です。
- 近くに行き、名前を呼んでから伝える
- 一度に一つ、短く具体的に伝える
- すぐ言い直さず、行動を始めるまで少し待つ
- 必要なら実物や指さしを添える
- できた行動を具体的に伝える
たとえば「早く準備して」ではなく、「靴下を持ってきて」と一つだけ伝えます。それができた後に「次は履こう」と続けます。何ができたのかが分かる返し方をすると、お子さん自身も成功を捉えやすくなります。
園の先生と共有したい5つのこと
園と家庭で同じ方法を完全にそろえる必要はありません。まずは、次のような具体的な情報を共有してみましょう。
- 入りやすい活動と、難しくなりやすい活動
- 個別の声かけ、写真、見本など、分かりやすい伝え方
- 活動の始まり・途中・終わりのどこで止まりやすいか
- 人数や座る場所による違い
- できた場面と、そのときの条件
「一斉指示が通りません」だけでなく、「最初に名前を呼ぶと動ける」「写真があると分かる」「3人なら参加しやすい」と分かれば、次の支援を一緒に考えやすくなります。
相談は「まったくできない」段階まで待たなくて大丈夫です
一斉指示への反応には個人差があり、一つの姿だけで診断や発達の状態が決まるものではありません。一方で、次のような状況が続くときは、園や地域の相談窓口、児童発達支援などへ相談すると、今のお子さんに合う方法を整理しやすくなります。
- 個別に伝えても分かりにくい場面が多い
- 集団場面で不安や疲れが強く、本人がつらそう
- 園生活への参加が難しく、できる経験が減っている
- 園と家庭で対応に迷い、保護者の負担が大きい
「相談するほどではないかも」と迷っている段階でも構いません。診断名を決めるためではなく、お子さんが分かりやすい条件と、次に試せる関わりを見つけるための相談です。
SHIP中央では、個別から小集団へ経験をつなぎます
児童発達支援SHIP中央では、お子さんの姿を「指示が通る・通らない」だけで判断しません。ことばの理解、注意の向け方、感覚への反応、切り替え、周りの人への気づきなどを丁寧に見ながら、今取り組みやすい段階を探します。
一対一で分かりやすく経験する、職員と二人で試す、小さなグループで役割を持つ、園や家庭でも使える方法を共有するなど、無理のないステップをつくります。
令和6年7月の児童発達支援ガイドラインでは、本人支援を「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」の5領域から捉え、家族支援や移行支援、地域との連携も含めて支える考え方が示されています。SHIP中央でも、ご家庭や園での様子を伺いながら、生活の中につながる支援を大切にしています。
SHIP中央は、山梨県中央市西花輪3637-15にある児童発達支援事業所です。中央市・昭和町・甲府市南側・南アルプス市・市川三郷町周辺で、お子さんの指示理解や園生活について気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。受給者証をお持ちでない方、利用をまだ決めていない方も、見学でお話を聞いていただけます。
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参考にした公的情報
※この記事で紹介した関わり方は一例です。お子さんによって分かりやすい方法や必要な支援は異なります。

